痔ろう(あな痔)

痔ろうとは

肛門内の肛門陰窩(いんか)というくぼみに細菌感染が起こり、肛門周囲に炎症が広がって膿瘍を形成します(肛門周囲膿瘍)。膿瘍が皮下組織や括約筋の間を広がっていき、皮膚に穴が開いて膿が外に排出される病気です。

原因

普段から下痢が多い方、アルコールの多飲により下痢が多い方、肛門を締め付ける力が強い方に発生します。
またクローン病では複雑に走行した痔ろうを発症することもあります。 広義には裂肛から細菌が入り込み、痔ろうを形成する、裂肛痔ろうという病態もあります。

症状

肛門周囲膿瘍の状態の時期には、肛門周囲の激しい痛み、熱感、腫れ、発熱などの症状で発症します。
外来診察していると、「座れないので立っていてもいいですか?」とおっしゃる患者さんもよくいます。
その後、その膿瘍が皮膚に穿破すると、肛門内と皮膚の間に皮下トンネル(瘻管)が形成され、痔ろうという状態になります。痔ろうになると、膿の溜まりは小さくなるため、痛みは軽減していることがほとんどです。
皮膚の穴(2次口)から持続的に膿が出続けることもあります。膿が出なくなるほど炎症が落ち着くと2次口からトンネルの硬結を触知するのみになります。

痔ろうの分類

痔ろうには様々な分類が提唱されているが、当院では主に隅越分類を用いて、治療方針の検討をしています。

I型(皮下または粘膜下痔ろう) 直腸粘膜と内肛門括約筋の間に瘻管が存在するもの
II型(内外括約筋間痔ろう) 内括約筋と外括約筋の間に瘻管が存在するもの
III型(坐骨直腸窩痔ろう) 外肛門括約筋を貫き、瘻管が複雑に走行するもの
IV型(骨盤直腸窩痔ろう) 肛門挙筋の上に瘻管が走行するもの

さらに歯状線の上下により高位(H)と低位(L)に、瘻管の分枝・走行により単純なもの(S)と複雑なもの(C)に細かく分類されています。

IL(皮下痔ろう)、IH(粘膜下痔ろう)
IILs(低位筋間単純痔ろう)、IILc(低位筋間複雑痔ろう)
IIHs(高位筋間単純痔ろう)、IIHc(高位筋間複雑痔ろう)
IIIUs(片側の坐骨直腸窩単純痔ろう)、IIIUc(片側の坐骨直腸窩複雑痔ろう)
IIIBs(両側の坐骨直腸窩単純痔ろう)、IIIBc(両側の坐骨直腸窩複雑痔ろう)

と記載されます。

また、注意が必要な特殊な痔ろうとして、炎症性腸疾患であるクローン病に合併した痔ろうがあります。
クローン病は全消化管に炎症や潰瘍を形成してしまう病気です。直腸の潰瘍から複雑にトンネルを形成し、上記の分類で説明ができないような痔ろうを形成します。
上記を適切に診断するために、当院では肛門エコーを用いて、膿瘍の進展範囲や痔瘻の瘻管の走行を確認しております。

治療法

痔ろうになると、基本的には手術しか根治させる方法はありません。 代表的な手術方法は以下の通りです。

切開開放術(Layopen法)

痔ろうのトンネル(瘻管)を開放し、肉芽の盛り上がりにより治癒をはかります。
比較的浅い痔ろうに適応となります。そのため、括約筋の切除は少なくて済み、肛門の緩みや、肛門の変形は少なくて済みます。

括約筋温存術(Coring out)

瘻管をくり抜き、切除します。
Layopen法では、括約筋損傷が大きくなってしまうような、瘻管の走行が深い痔ろうに適応となります。肛門変形のリスクは少なくて済みますが、瘻管の再発率は少し高くなります。

Seton法(シートン法)

瘻管の管にゴムを通します。ゴムの擦れる力や、引っ張る力で徐々に瘻管を浅くしていき、自然に脱落するのを待つ術式です。
徐々に瘻管が切り開かれるため、肛門変形のリスクは少ないとされています。外来加療の期間はやや長くなる傾向があります。 術後の痛みは少なく、術後の活動制限もほとんどありません。

III型痔ろうやIV型痔ろうでは、特に複雑な手術方法が必要になることも多く、基本的には入院での治療をおすすめしております。肛門エコーを用いて診断することで、適切な治療法を提案できるよう、日々丁寧に診療しております。

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